騙されるな!投資利回り10%以上でも赤字になるカラクリ

不動産投資をする方がまず着目するのが「利回り」でしょう。銀行の預金金利が現在0.01%です。それに比べて都心3区の新築ワンルームマンションの利回りが5%としたら、随分と魅力的に感じられます。まして郊外の一棟アパートで10%の物件があればオイシイ物件に見えるかもしれません。

しかし、その利回りの数字だけを見て投資すると赤字物件を抱えて大失敗します。
今回はなぜ利回りが10%を超えても赤字になるのか、不動産投資を始める方へお話します。

その利回りは投資物件が持つ真の収益力?

物件概要書には書かれていない真の収益力を調べる

不動産投資を始めたばかりの方だけでなく、プロレベルの方でも「利回り」に注目して物件を見ていきます。
しかし、初心者の方は物件概要書に書いてある「利回り」をそのまま見るのに対し、プロレベルの方は参考程度にしか見ていません。その違いはどこにあるのでしょうか?

  • 「築浅のワンルームで6%の物件に投資したけど、実際は4%位しか回らない」
  • 「一棟アパートで利回り10%超えの物件を見に行ったけど空室ばかりなのは何で?」
  • 「利回り12%もあるけど、見に行ったら一階店舗がずっと空いている」
  • 「グロス利回り・ネット利回りの違いがわからない」

最初はわからなくて当然です。しかし、物件概要書に書かれた利回りは物件の持つ本当の収益力を表していません。最後は投資家自身が自分の足と目で収益力を把握しなければなりません。

では、利回り10%以上でも赤字経営に転落するカラクリについてお話します。

投資利回り10%以上でも赤字になるカラクリ

業者は表面利回りを使って物件を紹介している

まず知って頂きたい事は、不動産業者が物件概要書に記載してある利回りは、全部「表面利回り」で書かれているという事です。業界用語で「グロス利回り」とも呼ばれています。

この「表面利回り」は、賃料の年額を販売価格で割っただけのパーセンテージに過ぎません。

例えば月額賃料90,000円のワンルームがあるとして、その販売価格が3,500万円だとします。

すると表面利回りは

  • 賃料月額90,000円×12か月=108万円(賃料年額)
  • 108万円 ÷ 3,500万円 ≒ 3.1%(表面利回り)

となります。

収益物件の大手ポータルサイトも全て「表面」と併記した利回り表示がされています。

不動産投資はキャッシュフロー

前回お話した通り、不動産投資はキャッシュフロー(現金の流れ=収支)を把握しなければ失敗します。

この「表面利回り」は「収入」(インカム)を販売価格で割っただけで、どこにも支出(アウトプット)が含まれていません。実際にはローンの支払い、管理費・修繕積立金の月額は必ずありますし、マンションでも町内会費を徴収される場合もあります。

不動産投資では、こうした出ていくお金である「支出」を全部上げた「総費用」を把握し、同様に賃料収入の他に共益費を多めに徴収して実質的に賃料の一部分となっている金額など、全ての「収入」を合計した「総収入」から差し引いて「純収益」を求めなければなりません。

なお、通常「総収入」「総費用」は一年単位(年額)で算出します。

固定資産税年額は無論のこと、1年単位で支払われるものがあれば全てを「総費用」に含めます。

「ネット利回り」(NOI利回り)

こうして「総収入」から「総費用」を差し引いた収益が「純収益」=NOI(ネット・オペレーティング・インカム)です。

この「純収益」(=NOI)を物件価格で割った利回りが「ネット利回り」(NOI利回り)と言います。

初心者の方は欲張らず、この位まで知っておけばいいと思います。

実際にはこのNOIから支出を伴わない修繕費など資本的支出を含めた数値をNCF(ネット・キャッシュフロー)と呼び、私達・不動産鑑定士が「収益還元法」で用いる純収益はNCFです。

このように、不動産投資では業者を通じて細かい費用項目をヒアリングし、少なくとも「ネット利回り」の算出根拠となるNOIを自分で求めないといけません。

表面利回りが10%だとしてもNOIベースだと8%を下回る位のはずです。

「グロス(表面)利回り」と「ネット利回り」(NOI利回り)の違いが分かるだけでも、かなり物件の見方が変わると思います。

満室想定での利回りは「絵に描いた餅」にすぎない

業者の物件概要書を良く見ると「満室想定●●万円」と備考欄に書いてあるはずです。

空室があった場合、実際の収入は少ないはずですが、業者は「想定賃料」を空室に当てはめ、「満室想定賃料」をで「表面利回り」を計算して表示しています。

悪質な業者は空室の想定賃料を高い水準で書き込み、収益力を高く見せるようにします。

初心者の方は、この「満室想定賃料」を物件価格で割った「表面利回り」を額面通り受け取ってしまい、利回り10%以上のトリックに安々と引っかかってしまうのです。

郊外や地方都市に所在する物件は要注意

特に郊外や地方都市に所在する物件は要注意です。

実際に現地へ行ってみて、周辺にある同規模、同グレード、同じ築年数の物件があれば、外見から空室があるかどうかチェックして下さい。それだけでも物件周辺に賃貸の需要があるかがわかりますし、空室が多ければ「満室想定」など完全に「絵に描いた餅」に過ぎません。

例えば一階に10部屋ある、2階建の一棟アパートがあるとすれば、10部屋×2階で20部屋あります。

近隣を歩いてみて、2室空室の物件が多いとすれば、2室÷20室=空室率10%と計算できます。

満室想定どころか、想定の90%しか稼働しない事を前提にNOIを考える必要があります。

私達、不動産鑑定士が「実査(じっさ)」と呼ぶ現地へ赴いた調査でも、このようにして周辺の賃貸需要や空室率の状況を把握していますし、そもそもアパートローンを審査する金融機関も同様な方法で担保価格を査定します。

満室想定の数字で10%回っていても、NOIどころか「表面」ですら実際に7%しか回っていなければ、NOIは5%前後でしかないはずです。

NOIを理解したら、自ら実際の稼働状況も調査できる目を持つようになりましょう。

利回りが高いのは「リスク」も高い投資

現在、2020年東京オリンピック開催を前にした大規模開発が都心の湾岸エリアで行われており、都心3区内の収益物件の利回りが「下がって」います。港区内は物件によりますが、表面5%ですらすぐ売れてしまう状況のようです。

その反面、郊外や地方都市へ行くと、利回りが表面で8%、10%と高利回りの物件がまだ見つかる可能性があります。

「表面利回り」と「満室想定」の話をしてきましたが、地方都市、例えば福岡の博多、宮城の仙台、北海道の札幌に「表面利回り」10%以上回る物件があったとします。

利回りだけ見れば高利回りですが、そもそも、その地方都市の物件周辺に賃貸需要があるのかどうか?

物件概要書を見ただけではわかりませんし、積雪によって屋上防水加工が痛み、雨漏りがする物件かもしれません。

以前「リスク」についてお話しましたが、都心、郊外、地方都市を問わず、「利回り」が高いということは「リスク」がそれだけ多いと言えるのです。

私達不動産鑑定士が「価格」を求める際に使う「還元利回り」という「利回り」があります。
収益還元法でNCFを割る時に使う「利回り」です。

この「還元利回り」は、鑑定理論上、長期金利を基本利回りとして、物件の「リスク」(「リスクプレミアム」という)を加算して求めます。

例えば「地域リスク」+1.0%、「物件リスク」+1.5%、「地震・災害リスク」+0.5%、という感じです。

20%を超える物件も・・・

地方ばかりではありません。
新宿歌舞伎町2丁目の風俗街にある、風俗店とスナックなど飲食店舗が入った「ソシアルビル」の「表面利回り」は15%を下らないと思います。モノによっては20%を超える場合もあります。

その場合、単純に「儲かる」代わりに「リスク」が高い投資になることは想像がつくと思います。

その他、郊外地によくあるオール・サラ金ATMのビルや木造平家建店舗はやはり高利回りです。

サラ金系が入居するビルは入居者が嫌う傾向があるため、オール・サラ金になったビルは正に「最後の砦」状態のリスクが高い投資物件なのです。

このように、利回りが高いことは、その分投資の「リスク」(=リターンの不確実性)が高いということを忘れないで下さい。

店舗・事務所ビルはハイリスク・ハイリターン

不動産初心者の方は、まず居住用物件であるワンルーム、一棟アパート・マンションなどから始める事をお勧めしますが、経験者で「リスク」を取れる程余裕がある投資家は難易度が高い「店舗」「事務所」ビルを購入する方もいます。

一般に居住用物件は入居者が安定的に入居してくれます。

賃借人が大学生なら卒業する4年後まで入居してくれる可能性が大きいですし、運が良ければ就職後もしばらく入居してくれます。

サラリーマンやOLも転勤や結婚で退去するまで一定期間は入居してくれると予測できます。つまり、安定した賃料収入が見込めるということです。

儲からないと判断すれば撤退の決断も早い

では店舗・事務所はどうでしょうか?

特に一階店舗がそうですが、一般的に繁華街の1階店舗は都内23区都心部なら坪あたり5、6万の小規模店舗もあります。しかし、商売ですから、儲からないと判断すれば撤退の決断も早いのが当然です。

世田谷通りに面したある新築店舗ビルの1階に不動産業者が入居しましたが、半年位して通りかかると既に空室でした。このように店舗・事務所ビルは埋まると高収益を得られますが、一旦空室が出ると再度入居者が決まるまで空室が続くリスクが高いのです。

店舗・事務所ビルの「表面利回り」は10%を超える物件も結構探せばあるのですが、実際見に行くと、1階、2階共に空室、エレベーターのない、3階~6階までは賃料がかなり安目に設定されており、「満室想定賃料」など参考にならず、

「こりゃダメだ」

と、一目で判断できる物件もありました。

先程上げた「ソシアルビル」などや風俗店など、特殊な業態の店舗が入ったビルも埋まれば高収益で高利回りですが、実際は空室リスクが高く、一度暴力団の抗争事件が起きたり、何か事件が起きれば「事故物件」扱いで入居者がしばらく入らなくなってしまいます。

こうした店舗・事務所ビルも「表面利回り10%」を超えていても、実際は「表面」で7%、6%しか回っていない物件がゴロゴロあります。

このように「表面利回り」が10%を超えていても赤字経営になる物件が沢山あることを忘れないで下さい。

まとめ

業者の表面利回りでなく自分の目でNOIを把握

今回はNOIやNCFといった難しい投資用語もお話しましたが、重要な事は

  1. 業者の「表面利回り」ではなく「ネット利回り」で物件を見る目を持つこと
  2. 自分の足を使い目で見て、NOIで物件の収益力を正しく把握すること
  3. 高利回りの物件はそれだけリスクが高いこと前提にリスクを把握してから投資すること

これらを踏まえて赤字経営にせず不動産投資を成功させてください。

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